2017/12/13

もう男には任せておけない

ウーマンズ・マーチと「まとも人間」の共闘による政権奪回

トランプ大統領の就任式の翌日、米国議会の前に広がる公園と道路は、雨がちでまばらだった就任式の人出に比べて、桁違いの人出で埋まった。ウーマンズ・マーチに集まった人々だ。ウーマンズ・マーチの主役はもちろん女性だった。首都ワシントンだけではなかった。アメリカ中の大小の街々でマーチが行われた。それは、アメリカ初の女性大統領の就任を祝うはずだった場所で、女性蔑視の蛮行を自慢げに話し、口からでまかせの嘘を恥じることのない男が大統領に就任したことに対する義憤、投票数では3百万票の差で勝ったヒラリー・クリントンが大統領になれなかった仕組みに対する義憤を、トランプと共和党の差別・格差拡大政策を阻止し打倒するエネルギーに転換することを確認する、トランプへの宣戦布告の集会であった。


戦いはトランプが大統領に当選したとわかった直後から準備され、さまざまの草の根運動が名のりをあげた。「Indivisible Guide」(分断拒否ガイド)は一週間でまとめられ、瞬く間に全米に「indivisible」に賛同する草の根グループが結成された。賛同グループが6000以上できているそうだ。「indivisible」が標語になったのは、トランプと共和党がアメリカを二分するような差別アジェンダを前面に押し出してきたことを分断統治として捕えているからである。ちなみにindivisibleはアメリカの「The Pledge of Allegiance (忠誠の宣言)」の中に出てくるお馴染みの単語で、小学校から朝礼でこの宣言を暗証させられる。
The Pledge of Allegiance (忠誠の宣言)
I pledge allegiance to the flag of the United States of America and to the Republic for which it stands, one Nation under God, indivisible, with liberty and justice for all. (私はアメリカ合衆国国旗と、それが象徴する共和制、神の下の統一国家、分割すべからざる、万民のための自由と正義の国に忠誠を誓います)背景の詳細は、ウィキペディアの「忠誠の誓い」を参照。

分断統治が日常生活に落とす影は、家族や親戚、友人たちが集まる独立記念日や感謝祭、クリスマスなどの祝祭日に顕著に現れる。ペテン師トランプの口車に乗せられて投票した連中がアメリカの民主主義を破壊し、威信も名誉も信用も地に落としたと考える反トランプ派は、トランプ支持者と口を利くのを拒否したりするのは序の口で、親子の縁を切ったり、離婚を宣言したりした例もあるとか。アメリカ心理学協会では毎年アメリカ人の感じているストレスの度合いを調査しているが、2017年はアメリカ史上最悪の年だという人が多かったとか(APA Stress in America™ Survey: US at 'Lowest Point We Can Remember')。

トランプの乱暴な言動やハッタリは開発途上国の独裁者のイメージに重なる。こわもてが売りのニューヨークの不動産業界では通用するスタイルなのかもしれないが、洗練された知的なステーツマンのイメージこそが世界に君臨する民主主義と人権尊重の国アメリカにふさわしいと思っている人々には、トランプ大統領の出現は、恥ずかしく思っていたお里が知れてしまったように感じられると言ってもいいかもしれない。

トランプ政権が最初に挑んできた戦いは EPA(環境保護庁)や国立公園サービスを始めとする各省や研究機関の科学者たちに対する口封じ(広報の停止)であった。それまでに蓄積されてきた科学的研究と調査の資料がデーターベースから削除されることを懸念した科学者たちは安全なところにデータをコピーしたという話だ。削除されたウェブサイトやツイッターのアカウントに代わるアカウントをひそかに作って口封じに抵抗する科学者も出てきた。口封じのやり方が余りにもジョージ・オゥエルの『1984年』に描かれた暗黒の世界やナチスドイツの警察国家に似ていたので、ナチスドイツの時代にヒットラーに抵抗して強制収容所に入れられていたMartin Niemöller (1892–1984) という牧師の有名な言葉「First they came for the Socialists, and I did not speak out...」(まず、社会主義者がやられたが、私は抗議をしなかった。。。)をもじった「First they came for the scientists 」(まず、科学者がやられた)が盛んに引用され、みんな兜の緒を引き締めた。国立公園サービスの科学者が口を封じられた理由は、トランプの就任式の人出と8年前のオバマの就任式の人出を比較できるように同じ視点から取った議事堂前の公園の写真を公開したからだと言われている。2017年12月現在で、環境保護庁の科学者や調査官合わせて700人が辞職したということである。トランプ/共和党の政権がこのまま続けば、環境保護庁も国務省も消費者保護庁も労働省も形骸化し、小さな政府が実現することは間違いない。

次の戦いは入国禁止令だった。既にビザを取得して飛行機に乗っていた7つのイスラム国からの入国を拒否して入国管理事務所に足止めするという法治国家としては考えられない蛮行を実行しようとしたのだ。オバマ政権下で発行されたビザは認められない、甘い基準で発行されたに違い、新しいビザ発行までに時間が必要という理由である。法治国家の要である裁判所はこの入国禁止令を無効だと判断したから、トランプは裁判官たちに当たり散らした。

次は健康保険制度、オバマケアを巡る戦いになった。共和党が多数を占める下院では、過去7年間に渡って、毎月のようにオバマケア撤廃を決議してきたから、「Resist(抵抗)」を合い言葉に各地で様々の草の根プロテスト(地元議員をターゲットにしたタウンホール・ミーティング、座り込み、デモなど)が行われた。結局、それが実際に撤廃されるとなったらしり込みする共和党議員が少なくなく、オバマケアを撤廃してその前の状態に戻すことをもくろむ共和党の法案は可決されなかった。しかし、無加入者に対する罰金の徴収を停止するという大統領令を止めることはできなかった。結局、共和党は税制改革に付帯させて、罰金の徴収を停止する法律を通した。これは表向き選択の自由を保障すると宣伝されているが、個人健康保険の加入者が減って保険料が上がる効果があり、保険料が上がるとさらに加入者が減るという悪循環に陥る可能性が高い(この法律が可決されたあと、トランプはこれでオバマケアは実質撤廃されたと、公約を果たしたことを宣言した)。オバマケアにはこのような悪循環を止める仕掛けがなく、毎年インフレ率をはるかに超える5~30%の保険料の値上げも、高年齢になると幾何級数的に上昇する保険料も保険会社の言うままに認めている。しかも、自由競争で保険料を抑えるはずだったのが、裏で談合でもやっているのか、オバマケアに参入する保険会社がどんどん減って、1社しかないという州も多い。2017年の報告では、健康保険会社はほくほくだそうだ。

トランプ政権は既に低所得者に対する補助金の一部を保険会社に支払うことを停止したほか、加入更新期間が短縮されただけでなく、日曜日には加入サイトが12時間閉じられ、加入手続きの案内や補助が大幅に縮小されている。補助金の対象となる中低所得者層の保険料自己負担分は、最大(4人家族で年収約10万ドルまでが対象)で収入の9.5%まで(最低は2%)で、それを超える分の保険料は所得税の一部として支払ったことにできる仕組みだから、加入者が減れば、それだけ政府の税収が増え、大金持ちや大会社に対する減税がやりやすくなるという計算である。オバマケアをさんざんけなして、それより安くて充実した健康保険が買えるようにすると公約したトランプの真意はどこにあったのか。結局オバマケアの破壊が目的で、それに代わる制度を作るつもりは毛頭なかったと結論するほかない。トランプが得意とするBait and Switch(おとり広告)である。

反トランプ陣営、特に女性が勝利を収めた戦いは、セクハラの告発と糾弾であった。FoxNews の人気トークショーホスト、ビル・オライリーが血祭りに上げられた。FoxNews はトランプの支持者が好んで見るニュースチャンネルであり、2016年の8月にセクハラで解雇されたトップのロジャー・エイルズに続くFoxNewsの大物の解雇であった。二人とも共和党の支持者で、トランプの古くからの友人であった。セクハラの告発には、慰謝料を払って被害者を沈黙させ、もみ消してきた FoxNews だったが、口止め料などに興味はない、ビル・オライリーとFoxNews をこのまま野放しにしておけないという女性たちとセクハラ専門の気鋭女性弁護士の攻撃をかわしきれず、FoxNews のオーナーのマードク父子はイエロージャーナリズムで売ってきた自社のイメージアップを目指してきたから、ロジャー・エイルズに続いてビル・オライリーの首も切った。秋になって左派のタレントや議員もセクハラで告発されるという流れに発展し、今や何十年も昔から蓄積されてきたセクハラやわいせつ・迷惑行為の告発が堰を切ってあふれ出したかと思われる有様である。タイム誌が年末に出す「今年の人」に「Silence Breakers」(沈黙を破った人たち) としてセクハラを告発した女性たちが選出された。



春から夏に掛けて行われた、上院と下院の欠員を埋めるための特別選挙では、期待された民主党による議席の獲得は実現せず、以前共和党の議員を選出した選挙区では共和党がすべて議席を保持した。トランプの支持率は始めから低かったが、トランプに投票した人々の間では9月現在、20%前後が反トランプになっているとはいえ、相変わらずトランプ/共和党支持は堅牢に見えた。民主党と共和党の対立が、人種、収入、学歴、性別、年齢、宗教などを軸として米国を二分するようになって久しいが、有権者のほぼ1/3を占める共和党の固定支持層は、よっぽどのことがなければ、支持を変更しないように見える。

バージニア州の州議員選挙に結実した女性の草の根運動

11月6日の地方選挙で、あのウーマンズ・マーチのエネルギーが一時的なものではなかったことがようやくはっきりしてきた。民主党の草の根運動が有効であったこと、地方、つまり、市町村や州レベルの選挙で勝つことから始めるという戦術が有効であることを誰もが実感した。何よりも明らかになったことは、その主役が女性であったことである。議席を失った共和党の候補と彼らから議席を奪った初当選の民主党議員を比べれば一目瞭然である。11月6日のバージニア州地方選挙で共和党から議席を奪った民主党政治家の大多数(当確15人中11人)が選挙に出たのは初めてという女性たちである。

THE RACHEL MADDOW SHOW: Democratic wave brings new faces into politicsより

象徴的だったのは、ニュージャージー州の地方選挙だった。共和党の John Carman という郡レベルの行政官(ニュージャージー州独特の制度で、このレベルの役人も選挙で決めるとのこと)が、ウーマンズ・マーチの日に Facebook に投稿したコメント「Will the women's protest be over in time for them to cook dinner?」(女性のプロテストは女たちが晩御飯を作るのに間に合う時刻に終わるのか)に腹を立てて、対抗馬として民主党から出た黒人女性、Ashley Bennett が選挙に勝ったのである。

地方選挙での民主党の勝利は、草の根運動が先導したもので、民主党が党として先導したものではなかった。地方選挙では議席の半数しか民主党候補を立てていなかった州も多い。全米50州のうち10州の民主党がワシントンポストの瀕死リストに載った。労働組合が弱体化した結果であり、民主党がブルーカラー層の支持を失った原因でもある。オクラホマ州も瀕死リストに載った州のひとつであるが、それを見かねた24歳の女性党員が民主党支部を乗っ取った(支部長に選ばれた)。史上最年少の支部長であるが、党の立て直しを推進して、今のところ2017年の州議会議員欠員補充特別選挙では7戦6勝である。古い体質の民主党ではどうにもならないと草莽が、特に女性が立ち上がったのである。

A Guide to Progressive Grassroots Organizations というページに今活躍している10の主な草の根ブランドが紹介されているが、そのほとんどがトランプ当選後にできたものである。いずれも、インターネットを活用して、全米各地の選挙区ごとにボランティア活動家と候補者を育てる戦術を展開している。共和党から議席を奪うチャンスがある選挙には、全米から活動家と資金を投入する体制も整えている。国政選挙だけに注目するのではなく、市町村レベルから丁寧に候補者を育てて戦い、まず州議会を民主党の手に奪回する必要があるというのが共通の認識である。10年ごとの国勢調査の結果を受けて選挙区の線を引きなおすのも、選挙や選挙人登録の手続きを決めるのも州だからだ。過去十数年に渡って、共和党は着々と自党に都合のいいように線引きと手続きを変更してきた。裁判沙汰にもなっているが (線引き裁判の例はこちら)、その効果は明らかで、今回のバージニア州の地方選挙でも、投票数で共和党を10%以上引き離した民主党が、議席数では過半数を取れるかどうかまだはっきりしていない(4議席がリカウント中)。

アメリカの女性が立ち上がった歴史は古い。1839年に、既婚女性の独立した財産所有権を認める法律がミシシッピー州で制定されたのに触発されて、同様の法律を制定する州が増え、1900年までにはすべての州で既婚女性の財産所有権を認める法律が制定された。女性参政権も1920年までには、国レベルで憲法改正条項として成立し、禁酒法まで制定された。

このとき禁酒法が制定された背景には、女性差別撤廃運動はアメリカ北東部のプロテスタント系の奴隷廃止運動にさかのぼることのできる運動であり、勤勉・禁欲的なプロテスタントの戒律と相容れないカトリック系(アイルランド系、南欧系)の移民が増えたことに対する不快感から、社会の乱れ、特に男の横暴と自堕落の原因として飲酒が槍玉にあげられたという社会宗教的背景と、工業化が浸透した結果、危険な機械や道具を扱う工場では、機械装置に合わせて規律正しく働く、しらふの労働者が必要とされていたという仕事場の変化という背景もあった。禁酒運動は男の横暴を苦々しく思っていた女性を女性主導の政治運動に巻き込むことに大いに貢献した。今日それに匹敵するのが女性蔑視とその顕示であるセクハラや迷惑行為の告発糾弾である。


1848年にニューヨーク州セネカホール市での集会で書かれた The Declaration of Sentiments(所感の宣言) という女性差別撤廃運動の宣言文を読むと、当時、法的には妻はすべての権利を否定された奴隷あるいは死人と同じような存在だったことがわかる。実は、女性差別撤廃運動の活動家たちは奴隷開放運動の活動家でもあった。

女性差別撤廃運動でも奴隷解放運動でも、財産所有権と参政権の獲得は第一歩でしかなかった。それで差別がなくなる訳ではない。第二次大戦中は、戦争に駆り出されたた男たちに代わって、あらゆる分野で女性が活躍せざるをえなかったから、女性たちは自分たちの能力に一層自信をもち、職業差別に敏感になった。戦後になって、黒人の差別撤廃運動や公民権運動と並行して、女性差別撤廃運動、いわゆるフェミニスト運動が広がっていった。しかし、2017年現在でも、同じ職場で同じ仕事をしていても女性の賃金は低いという形で差別は根強く残っている。女というだけで軽く見られたり、痴漢やセクハラ、あげくにはレイプにいたるまで、男に不快な体験を強いられたことのない女性はまれであろう。

今、このような女性の被差別感は、黒人やヒスパニック、イスラム教徒、LGBTQその他のマイノリティの被差別感と同等かそれ以上の共感を得ている。なにせ、人口の半分が女性なのだから。大統領選挙中の女性蔑視の言動やセクハラを告発した女性の数、白人男性至上主義をあおる言動などから、トランプ大統領はアメリカ社会における差別の象徴と捕らえられ、女性蔑視に対する反発が打倒トランプ運動の強力なエンジンの一つとなっている。そして、このエンジンが長年共和党が独占してきたアラバマ州の上院議員選で民主党が勝つという歴史的な逆転劇の牽引力となった。

白人を主体とする共和党に比べて、民主党は白、黒、茶、黄、その他のマイノリティを積極的に受け入れてきたから、レインボー連合(Rainbow coalition)と呼ばれてきたが、ここへ来て、「まとも人間」の連合(coalition of the decent)と呼ぶ人が出てきた。差別や蔑視や白人至上主義をあおり、自分に都合の悪いことはすべてフェイクニュースと呼んで片付ける共和党/トランプは、まともな尊敬できる人間じゃないという気持ちが込められている。